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夫がつけている五年日記によると 去年の桃は 二十日の収穫では 少し早かった。

今年は 孫たちがいて 朝夕も土日も 畑へ行くどころではなかった。
一度 連休中に 草刈りには行って 一つ二つ試しにとってみたが 成りが悪かった。
そして 夫の頭には 去年の記載があった。

それでも 孫たちが帰る土曜日の早朝 いくつかでも収穫できたら と 夫は畑へ出かけた。

娘たち家族は 今夏も例年のようにイギリスやイタリアへ出かけ 一月は日本へ帰って来ない。
だから毎年 家族が日本にいるうちに 彼らに食べさせる分だけでも と収穫して送っている。
今年も 二十六日には日本を離れる という家族に 食べさせたかったのだろう。

私の生家がある町は桃や梨の生産地で 生産農家には親戚や知り合いが多く 我が家の
子供たちは 幼い頃から 完熟の美味しい桃を ふんだんにいただいて 夏を過ごした。

それがあってか 三人の子の中でも娘は特に 何より桃が好きで 桃さえあれば何もいらない
と 放言するほどの桃好きだ。
だから夫はよけいに 彼らが帰国する頃には収穫が終わっている桃を 日本にいるうちに
食べさせたいという気持ちが 娘可愛さの親バカで強いのだ。

ところが土曜日 畑から戻った夫が 玄関の戸をガラッと開けた後 しばらくして
オイ!!ちょっと来て見よ‼︎
と 大きな声で私を呼ぶ。

午後には孫たちを名古屋まで連れて行かなくてはならなくて テンテコ舞いしていた私は
何なの⁉︎もう〜! と思いながら出て行くと 桃の収穫に使うコンテナが 玄関に山のよう
に積まれている。

一瞬 エッ⁈ もうこんなに成っていたの⁈ と思ったら 夫が
コレ ぜぇ〜〜んぶ ダメな桃!!これで我が家の今年の桃は オシマイ!!

エエ〜ッ ‼︎ まさかのまさかだ‼︎

これでも まったく食べられないものは畑に捨ててきたんだ 山ほど……
積んだコンテナを眺めながら 悔しそうに夫が言った。

この前例のない酷暑で 虫の被害がないかわり 種の際から まるで煮え立ったように
茶色くなってしまったらしい。
そうでなかったら どうしてこんなになってしまったのか……。

私が見ては 中の様子が分からないが いくつか切ってみると なるほど どれも茶色い。
それも 種ぎわから外へと 腐ったようになっている。かといって せっかく自分が
丹精込めて育てた桃だから 食べられる部分を少しでも切り取って ジュースかジャム
にでもできれば と 夫は 気を取り直して 持ち帰って来たらしかった。

見かけは姿形はいいし色もほどよくて どこも悪いところがない桃なのに……仕方がない
食べられる部分だけを 加工するしかない。

全てを捨てるに忍びなくて 持ち帰っては来たものの 気持ちの持って行きどころが
ない というのが 夫の心中だろう。

でも 夫が汗水流して育てた桃だ。
ここは 夫の気持ちが少しでも安らぐように 面倒でも 一つ一つに包丁を入れて
食べられる部分を切り取って集め ジャムにでもしよう……。

そう思って取りかかったはいいが なにせ数が数だから なかなかハカがいかない。
コンキ コンキ‼︎ やるしかない‼︎

ところが なにせ数が多いだけでなく 切っても切っても 一個から残る食べられる部分が
わずかしかない。作業する途中で疲れてしまい 一休みしているところに電話があったり
して 一休みが二休みに と長くなった。

そのあと さて また切り取る作業に戻ろう と 台所へ行くと さっきまであった桃が
ほとんどなくなっている。
? と思っていると 夫が 捨てたぞ!もういい!骨折り損なだけだ!
良さそうな部分がありそうなのだけ残しておいたから それだけやってくれればいい!

助かった と思いながら 私の気持ちも複雑だったが とにかく残りを処理して
ジャム作りにとりかかった。

夫を励ますためにも
ほら でも ジャムにするには多いほど こんなにたくさんになったよ
と 出来るだけ明るく
それに ちょっと食べてみたけど すごく甘いから いいジャムになるわよ
と 言い添えながら 火にかけ 煮詰めた。

なんにも手伝えない私だって こんな言葉で夫の気持ちが晴れるとは 思っていない。

桃の木の下草刈りにだって 何度出かけて行ったことか………
冬は冬で枝打ちし 肥料を運んで元肥えをやり 一個ずつに袋をかけ 消毒だって
濃度に気を遣いながら 重い機械でし……

それらのすべてを一人でやって やっと成らせた桃なのに……。

その労苦が 見事に裏切られてしまったのだ。

悲しくて虚しいが これで 我が家の桃は すべて完了……
あっけなく終わってしまった……。
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孫たちが帰った後

新幹線の待合室で待ち合わせ

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